シェア本棚 一箱店主 住まいに関する本

BOOK PARKちばぎんざにてシェア本棚の一箱店主をすることになりました。住まいに関する本を中心に貸出しと販売をしています。住まいをより良くしたいとお考えの方に参考になればと思います。
布製文庫本カバーも販売しています。
平日のみのオープンです。

〒260-0013 千葉県千葉市中央区中央中央3丁目3−9 MF9ビル 2 階
rebuildlabo.net

販売している本の一冊をご紹介します。

「エアコンのいらない家」山田浩幸著
初版は2011年ですから、近年広まった高断熱高気密住宅よりも一昔前のお話のように思われるかもしれません。しかし、住宅の性能をどんどんあげていく考え方以前の、大切な部分である「自然の原理原則」をわかりやすく解説してくれている本です。
住まいの基本は太陽、風、湿気などの自然といかにうまくつきあうかにあると思います。必ずしもエアコンをなくそうとか過度な省エネをすすめるという内容ではなく、バランスの取れた暮らし方の提案がなされています。
最近では断熱材や窓の性能を気にされたり、床下エアコンを検討されたりする方も多くなったように感じます。またさまざまなことを数値化して競うような風潮もあります。
私は住宅設計をしている者として、まず、「自然の力」を活かす家づくりをお勧めしたいと思います。一生に何度もない家づくり。性能をあげることばかりにお金を使ってしまってはもったいないと思いませんか。
快適で省エネで健康的に暮らしたい、もっと家づくりを自由に楽しみたいと思われる方こそ、性能はほどほどに、自然と上手に付き合える家にして、お金は本当に自分が豊かな気持ちになれることにかけてはいかがでしょうか。

建築士のしごと -家具を考える-

過去、建築家は建築だけでなく家具や金物もデザインしていました。新しい素材や技術を試す意味もあったかもしれません。安く大量に簡単にいろんな物が作れる時代になってからはなかなかそうならないのか、あまりデザインされなくなったような気がします。写真は昨年武蔵野美術大学の椅子の展示を見に行ったときのもの。

私自身はずっと家具や照明器具に興味はありつつも、特に依頼があるわけでもないので頭の片隅に置き去りにしていました。ずっと寝かせておいたスツールのアイデアを、最近になって形にしてみようと思い立ち準備しつつあります。実現できたらどこかでお披露目できればと思っております。

これからの設計

事務所の登録は五年ごとの更新。平成30年に開設してはじめての更新となりました。
この5年で状況はだいぶ変わってきていると感じています。
CGやBIMを勧められることも増えました。学生は最初からCGを扱い、学生のうちに一級建築士の資格を習得したりもできるようになりました。今後は仕事自体がチャットGPT的なものに奪われるのではないかという人もいます。
私は2000年(平成12年)にはじめて設計事務所に就職しましたが、PCの性能がまだまだでminiCADやJWCADでさえよくフリーズしてとても効率が悪かったと思います。

これだけ効率化した時代にでは一体何を考えて設計をするのか・・・
今のところチャットGPT的なものは、前川〇〇風とか吉村〇〇風とかいうのはすぐにつくってしまいそうだなと思っています。過去の人の意匠をまねて現代風にアレンジなんていうのもやってきそうです。コンクリートで安藤〇〇風というのもできてしまいそう。ゆくゆくは複数の作家のいいとこ取りなどもやってくるのでしょう。
周辺環境や施主の条件から最適解を導き出すというようなこともいずれしてくるでしょうか。

そう考えてくると、全く新しい概念をつくり出すことが重要なのではないかと思います。たとえば、チャットGPTに「脱nLDK」と入力してもまともな答えは返ってきません。世間ではなんとなく使われている場合もありますが、設計の世界ではまだはっきりとした理論も概念も構築されていないから、「脱」と「nLDK」の組み合わせでしか答えてこない。ただ学習能力はすごいと聞いているので、そのうち(私より先に?)解を示してくるかもしれないが。

世の中が変わろうと、今までにない建築をつくりだすことを目指してこつこつとやっていくことには変わりないと思っています。

建築を楽しむ 2

先日地元である静岡の建築を観て廻った。新旧取り混ぜておよそ30棟。新しい大きな体育館から築50年以上の住宅まで。内部は観られないものもあったが、とても勉強になった。

こちらは昨年できたばかりの静岡市歴史博物館。(設計:SANAA)
張り出した展望廊下からは富士山がきれいに見える。外部はガラスと金属のシャープな印象。1階は発掘された戦国時代の道と石垣の遺構が露出展示されている。遺構を含めた平屋部分には大屋根が架けられていて、正面に見えている四角い箱の部分(2、3階)は展示室になっている。
SANAAらしい美しい佇まいだが、特に平屋部分の大屋根が気になった。外からは薄く見える屋根だが、内部はかなりスパンのとんだダイナミックな構造をしている。しかも屋根全体に微妙なたわみのようなものがある。天井がかなり高い巨大な空間の中をガラス張りの心許ないスロープをゆるゆると歩いていると平衡感覚がおかしくなりそうだった。

こちらは実家の近くに建っている倉庫である。幼い頃から建っている記憶があるので40年以上経っているに違いない。こうした昭和40~50年代の名もない建築にはどこか哀愁がある。バブル期に比べて良質なコンクリートが使われていたという話もあるが、50年近くも残っているところをみると大事にされてきたのだと思う。塗装の塗り分けも潔いしかわいらしいし愛着がわく。改修したのかもしれないが、ブロンズ色のアルミ製の住宅用玄関引戸なんか「いさぎよさ」の局地ではないか。

こういうものを見せつけられるとデザインとはなんだろうといつも考える。

かつて師事した建築家は朽ちても美しいものをと言っていた。

ヴォーリズの設計から学ぶこと 

少し前まで設計仲間と研究をする会に参加していた。それぞれ自分が研究したいことを持ち寄って自分の考えを聞いてもらい、ご意見をいただくような会である。その研究の一部でアルコーブというものを取り上げた。およそ1間角(1.8m×1.8m)のくつろげる空間のことをアルコーブという。(「パタン・ランゲージ」C.アレグザンダー著、179アルコーブ参照。)

新旧様々な建築にこのアルコーブがあり、本や写真などを参考に空間構成や窓、天井、仕上、家具などの有り様を研究した。研究対象は住宅が多いのでなかなか現実の空間を体感できる機会は少ない。

先日静岡で建築を観て歩いたとき、素晴らしいアルコーブに出会った。旧マッケンジー邸の食堂の一角である。

南西に張り出したサンルームのような空間で、おだやかな日差しで満たされた安らぎの場といった趣がある。現在は展示室となっている食堂の一角を緩やかに分節し特化している。腰窓の高さはソファーの背もたれの高さからカーテンボックスの下まで。開放感がありながら品格の感じられる丁寧な設計だと思った。窓枠や中桟の寸法も美しい。影まで気をつかって設計しているのかと思うほど。

技術が発達するほど、薄く軽く透明にという方向に傾倒していく建築がある一方で、物質をしっかりとらえて質感、量感をあらわにしようとする建築もある。古い建築を見ると技術的な制約がありつつ「どう見せるか」ということに苦心している姿がある。今となってはいろいろな表現ができるわけだが、人の「居場所」というのは重すぎず軽すぎず、装飾しすぎず簡素になりすぎずというところにあるのではないかと考えている。

建築を楽しむ 1

先日友人達と静岡の建築巡りをした。静岡は私の郷里で実家もあるのだが、建築をじっくり観て回るというのは始めての経験だった。2泊3日の旅で新旧取り混ぜて30近くの建築を見た。残念ながら内部は観られないものもあったが、建築を堪能した旅になった。

心に残ったものをいくつか紹介したいと思う。

旧マッケンジー邸はW.M.ヴォーリズが設計した1940年竣工のスパニッシュスタイルの住宅である。マッケンジーはお茶の輸出振興に尽力した人物でぜんそくの持病があったため、海辺で富士山がみえるこの地を選んだとのこと。夫の死後も夫人エミリーはここに留まり社会福祉の向上に努め、静岡市の名誉市民第1号となった。

ヴォーリズの設計は素晴らしいところがたくさんあるが、この踊り場のベンチは特に素晴らしい居場所になっていた。天気がよかったこともあるが、2月末とは思えないほど窓から気持ちのよい陽光が差し込んで暖かく包まれるような空間であった。

外壁を考える 2 

黒の家の外壁は金属サイディングです。金属鋼板の裏に16mmほどの断熱材が付いています。パネル状になっているので施工性がよく、現在はよく使われています。金属サッシとも相性がよく、コーナーの金物や板金なども利用して少し個性的な形にすることができました。
一番気をつけなければならないのは傷です。外部まわりは外壁を施工してからも設備や庇などさまざまな職方がはいるので、窯業系のサイディング以上に注意が必要です。
現在はコストやメンテなどの面でサイディングが多くなってしまいましたが、かつてはもっといろいろな仕上をやっていました。

こちらは防水モルタルの刷毛引き仕上げ。左官は手間がかかりメンテナンスも必要なため、だんだん使えなくなってしまいました。私はとても好きな仕上です。

こちらは幅広のガルバリウム鋼板のタテハゼ張り。1枚ずつ手作業で嵌合させていくのでかなりの手間がかかります。1枚が大きいのでたわみがでることもあります。再塗装は不要。
硬質なイメージになり、それはそれで個人的には好きな表現のひとつです。

サイディングのような既製品の材料はとにかく選定することに神経を使います。その後はある部材できれいに問題なく仕上げていくことを考えます。左官や金属板のような素材のままに近いものは、選定した後どのように納めていくかということを膨大な時間をかけて検討していきます。雨仕舞いや部材同士の接合、見え方・・・設計者としてはとても大変な作業なのですが、それもまた楽しい仕事とといったところでしょうか。

外壁を考える 1

以前は外壁を左官やガルバリウム鋼板で設計することが多かったのですが、最近は「サイディングでお願いします」と工務店やお客様から言われます。コストや施工性、メンテナンス、防火、保証、知名度、噂などいろんな面でサイディングの人気が高いようです。特に「窯業系サイディングから選んでください」などとかなり断定的にご指示いただくことも。設計者的にはデザインがかなり絞られてしまう頭を悩ませる頭を悩ませるものです。

こちらの交番は木造2階建てで窯業系サイディングの白と黒でとのご要望でした。
用途が用途なので、木造住宅っぽくしたくないのとコスト的にもかなり押える必要がありました。結果、ほとんどの部分をリブ9(ニチハ)のアグレアブラックを横張りとし、1階の正面部分のみCOOLイルミオ(ニチハ)のグラニットNMホワイトを使用しました。無機質で堅牢なイメージになったかと思います。

窯業系サイディングには石目調やレンガ調、タイル調などで高級感を出そうとするものも多くありますが、個人的にはベーシックで無機質なものを採用し締まった印象の建物にするよう心がけています。最近の窯業系サイディングはリアル感を追求しているものが多いですが、個人的にはどこまでいってもサイディングはサイディングという印象は拭えないし、はやりすたりも激しく数年で古くさく感じてしまうものも多い気がします。

平屋について考える

中庭のある家は最初、平屋で計画していました。中庭を取り囲むようなロの字のプランです。各部屋が中庭に面して開いているので、どの部屋にいても気配が伝わるような感じがします。屋根勾配を緩くし、冬でも中庭にいくらか日差しが落ちるように計画していました。残念ながら予算的に難しくなってしまい計画を一から見直しました。
中庭プランにすると外壁面や窓が多くなります。また、2階建てに比べて地業が増える、基礎の面積が増える、屋根の面積が増える、配管が長くなるなどなどコストを考えると設計者的には心苦しいことがたくさんあります。

しかし設計する側からすると、たまにしかやってこない平屋の計画というのは普段は考えない楽しい要素がたくさんあります。特に楽しいのは屋根や小屋裏部分の設計。2階建てならばリビングに吹抜を設けたり、一部を屋根裏部屋(ロフト)にする程度ですが、2階に諸室を並べる必要がないのでもっと大胆なことが考えられます。

床高さ、天井高さを自在につくり、光の入れ方や部屋のつながり方を考えたり、ロフトからあちこち見渡せるようにしたり、大胆な構造を現わしにしたり、どこにもないかっこいい屋根になったり・・・。変化に富んだ面白い建築になりそうです。